2026年7月9日、こんなニュースが流れました。
「アメリカの大きな投資ファンド・ベインキャピタルが、キオクシアホールディングスの株を全部売り終えた」
ベインキャピタルのマネージングパートナー(会社のトップ役員)のデービッド・グロス氏が、ブルームバーグというアメリカのニュースメディアのテレビインタビューで「われわれはもはやキオクシアの株式を保有していない」と話しました。
「全部売った」ということは、大量の株が市場に出た、ということですよね。
普通に考えれば「売る人が増える→株価が下がる」はずです。
ところがこの日、キオクシアの株価は前の日より8.33%も上昇して、77,860円で取引を終えました。
「え、なんで?」
この「なんで?」の答えを一緒に考えることで、株式市場の面白さがよく分かります!

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まず「ベインキャピタル」って何者?
ベインキャピタルとは、アメリカのボストンに本社を置く大きな投資ファンドです。
投資ファンドとは、たくさんの人や組織からお金を集めて、まとめて会社に投資する組織のことです。「会社の株を大量に買い、その会社が成長したら売って利益を得る」というビジネスをしています。
ベインキャピタルとキオクシアの関係はこうです。
カブサーのキオクシア記事でも学んだ通り、2018年に東芝が経営危機でメモリー事業を売却したとき、この事業を約2兆円(180億ドル)で買い取ったグループの中心にいたのがベインキャピタルです。
つまりベインキャピタルは、今のキオクシアが生まれるきっかけを作った会社でもあります。
ベインキャピタルはどうやって株を売ったの?
ここが今回の大事なポイントです。
ベインキャピタルは「7月9日に突然全部売った」のではありません。約8ヶ月かけて、少しずつ計画的に売ってきました。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2025年11月 | 最初の大規模売却(約20億ドル超を海外投資家に) |
| 2026年2月 | 追加売却(約35億ドル超) |
| 2026年6月 | 保有割合が14.17%まで低下 |
| 2026年7月8〜9日 | 残りをすべて売却。保有ゼロに |
7月8〜9日に「全株を売り切った」と発表されましたが、この日に急に大量売りが出たわけではなく、長い期間をかけて少しずつ売ってきた結果として「ゼロになった」と確認されたということです。
このように、大きな投資ファンドが長い時間をかけて計画的に売ることを「段階的売却(だんかいてきばいきゃく)」といいます。一度に大量に売ると市場が混乱するため、時間をかけて少しずつ売るのが一般的です。
ベインキャピタルはなぜ今、全部売り切ったの?
理由は一言でいうと、「十分に儲かったから」です。
2018年に約2兆円で買ったキオクシアの事業は、2024年12月に1株1,455円で株式市場に上場しました。そして2026年6月中旬には株価が最高で約11万2700円まで上昇し、一時は時価総額が56兆円に達してトヨタ自動車を抜いて日本一になりました。
約2兆円で買った会社が、56兆円の企業になったのです。
「これ以上持ち続けてもリスクがある。十分な利益が出た今が売り時だ」
これが今回の売却の判断です。
投資の世界では、投資した会社の株を売って利益を確定し、次の投資に回すことを「エグジット(出口)」といいます。ベインキャピタルにとって今回の売却は、約8年間の投資を無事に終えた「出口」でした。
ちなみに2,100億円ほどとされるベインの自己資金が、今回の売却で約2兆円近いリターンになったとも報じられています。約10倍のリターンです。

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全部売り切ったのに株価が上がったのはなぜ?
ここが今日のメインです。
7月9日、売り切ったというニュースが発表されたのに、キオクシアの株価は逆に大きく上がりました。理由は3つあります。
理由① 同じ日に「半導体株全体」が買われた
この日、アメリカの半導体関連の株価が前の日に大きく上がっていました。その流れを受けて、日本でも半導体関連株を買いたい投資家が集まり、キオクシアにも買いが入りました。
理由②「不安の種」がなくなった
ベインキャピタルは長い間、キオクシアの大株主として大量の株を持ち続けていました。大株主が大量に株を持っているということは、「いつか大量に売られるかもしれない」という不安が市場に常にありました。
それが今回「完全にゼロになった」ことで、その不安が消えました。
「もう大量売りは来ない」「株が市場に広く分散された」
これを「需給改善(じゅきゅうかいぜん)」といいます。売り圧力が薄まって、むしろ株が買いやすくなったと判断した投資家が増えたのです。
理由③ アナリストが強気の評価を続けている
アナリストとは、会社の価値を分析して「この株は高いか安いか」を評価する専門家のことです。
この日も証券会社のアナリストたちはキオクシアへの「買い」評価を維持・引き上げていました。
- UBS証券
目標株価を132,000円→144,000円に引き上げ - 岩井コスモ証券
目標株価130,000円→132,000円に引き上げ
今の株価(77,860円)より目標株価がずっと高いということは、「まだまだ上がる余地がある」とプロが判断しているということです。
7月9日の値動きを時系列で追うと
| 時間 | 株価 | 状況 |
|---|---|---|
| 前日終値 | 71,870円 | ベインが全株売り切ったと報道が出る |
| 朝の始値 | 77,220円 | 買い注文が殺到して高く始まる |
| 日中高値 | 79,950円 | 一時8万円に迫る |
| 日中安値 | 75,700円 | 利益確定の売りが出る場面も |
| 終値 | 77,860円 | 前日比+5,990円(+8.33%) |
「売った側」と「買った側」で全然違う意味になる
今回の話で一番面白いのは、同じ「売り切った」というニュースが、立場によって全く違う意味を持つということです。
ベインキャピタルから見ると…
「8年間の投資が大成功。計画通りに利益を確定できた」という話です。
市場の投資家から見ると…
「ずっと心配していた大量売りの不安がなくなった。むしろ買い時かも」という話です。
同じ「売り切り」という出来事が、片方にとっては「終わり」、片方にとっては「新しいスタート」になる。これが株式投資の奥深いところです。
今日学んだ言葉のまとめ
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 投資ファンド | たくさんの人からお金を集めて、まとめて会社に投資する組織 |
| 段階的売却 | 一度に大量に売らず、時間をかけて少しずつ売ること |
| エグジット | 投資した会社の株を売って利益を確定し、次の投資に備えること |
| 需給改善 | 売り圧力が薄まって、株が買いやすくなった状態 |
| アナリスト | 会社の価値を分析して「高いか安いか」を評価する専門家 |
「8ヶ月かけて売り切ったのに株価が上がった」
このニュースを聞いて「なんで?」と思えたあなたは、もう立派な投資家の目線を持っています。
株式市場では、ニュースの「表面」だけを見るのではなく、「実際にいつ・どうやって起きたのか」「誰がどう判断したのか」を正確に理解することが大切です。次のニュースでも、ぜひその目線で見てみてください!
- 本記事における個別銘柄や投資に関する記載は、あくまで情報提供のみを目的としたものであり、特定の株式の売買や投資を推奨・勧誘するものではありません。また、将来の投資成果等を示唆・保証するものではありません。実際の投資にあたっての最終決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願いいたします。
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